大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)60号 判決

審決取消事由の存否について判断する。

審決は、本願発明と第一引用例のものは、「乱流特性を与える隆起条の特性が異なる二枚の熱交換板によつて少なくとも一つの空間が形成されて成る板状熱交換器」である点で一致するという。

ところで、成立について争いのない甲第五号証の三によれば、第一引用例中には、「二つのフイン1とフイン2´(第4図)の一つは、他に対してその平面で一八〇度方向転換されスロツト型の流路がそれらの波形間で形成される。」(第二頁左欄五行目ないし八行目)との記載が認められ、右記載に第1図及び第4図並びに「第1図についていうと、フイン1は波形表面を有する板から成る。フイン1の波形はヘリングボーン模様に配置されていて、それらの該フインの対象の縦軸に関しての傾斜角度は全てのフインに対して同じになつている。」(第一頁右欄三四行目ないし三八行目)、「第4図は、組合された二つの波形フインを示す。」(第一頁図面の簡単な説明の項)との記載と併せ考察すると、第一引用例のものは、ヘリングボーン状板を交互に上下一八〇度回転した位置関係で結合して熱交換体を構成し、これを多数配列したものであるが、そのヘリングボーン状板は、本願発明の明細書の特許請求の範囲でいう「隆起条の数、位置、縦方向の広がり、及び熱交換板面のあらかじめある方向づけされた線に対する方向など」が、すべて同じであることが認められる。

したがつて、第一引用例のものの熱交換板は、交互に上下一八〇度回転した位置関係にあるが、熱交換媒体に乱流を起こさせるようにした隆起条の特性は、すべて同じというべきである。

一方、本願発明は、「乱流特性を与える隆起条の少なくとも一つの特性、すなわち隆起条の数、位置、縦方向の広がり、及び熱交換板面のあらかじめある方向づけされた線に対する方向などのうちの少なくとも一つの特性に関して異種の二枚の熱交換板によつて少なくとも一つの空間が形成される」ことを一つの構成要件としている(成立について争いのない甲第四号証――本件特許公報――の特許請求の範囲の項参照)から、審決が本願発明と第一引用例とは、乱流特性を与える隆起条の特性が異なる二枚の熱交換板によつて少なくとも一つの空間が形成されて成る板状熱交換器であるとした点の判断は誤つている。

この点に関し、審決は、第一引用例においても、熱交換単体を構成する二枚の熱交換板は、(上下)一八〇度方向転換されて組立てられているため、その隆起条は配列位置及び延在方向を互いに異ならしめられていることになり、この点で第一引用例は、本願発明の、「乱流特性を与える隆起条の少なくとも一つの特性、すなわち隆起条の数、位置、縦方向の広がり、及び熱交換板面のあらかじめある方向づけされた線に対する方向などのうちの少なくとも一つの特性に関して異種の二枚の熱交換板によつて少なくとも一つの空間が形成され」ているとの要件を充足していることになるとの趣旨の判断をしている。

しかしながら、本願発明の明細書の特許請求の範囲中における、前記「乱流特性を与える隆起条の少なくとも一つの特性……に関して異種の二枚の熱交換板」とは、使用(すなわち、上下に一八〇度転回させて使用すること)によつてのみ乱流特性が異なるようになる交換板を含まないものであることは明らかであるから、審決の右判断は誤りである。

審決は、更に、第一引用例も、本願発明におけると同様に熱交換媒体にはげしい乱流を起こさせるものであり、かつ、一般に、この種熱交換器において熱交換媒体の流路を複雑にして熱交換効率を向上できることは第二引用例あるいは第三引用例にも記載されているように公知の技術であることを併せ考えると、本願発明のように、隆起条の数、位置、縦方向の広がり、あるいは隆起条の方向などを適宜異ならしめて組合わせるようにすることは、その目的達成の為に当業者が任意に設計をすることができる程度の事項と認められるとして、本願発明があたかも熱交換媒体にはげしい乱流を起こさせて熱交換効率を向上させることのみを目的としているものであるかのごとく認定している。

しかしながら、本願明細書(成立について争いのない甲第一号証第一頁二〇行目ないし第二頁一八行目)には、本願発明の目的として、

「熱交換板製作のために工具が高価につく場合、製作者は板の種類を厳密に制限している。このようにしなければ、最も経済的に熱交換器を作ることが実際上できなくなつてくる。例えばもし、ある熱交換効率をうるためにこれに最も適するような型のある枚数の熱交換器が選ばれたとすると一つの熱交換媒体の末端温度が必要とされる温度よりわずかに低いものしか得られないことが起こつてくる。必要とされる温度より高い末端温度をうるためには、さらにもう一つの熱交換板を必要とするようになる。同じ熱交換器で末端温度を所望の温度にまでするためには媒体を幅の異なつた板空間内を通り抜けるようにして得られることは周知である。しかし、この方法では、ガスケツトの特別な配置と板空間をもたせるためのスペーサに正規な板配置と異つた配置を必要とするようになつて、高価なものとなつてくる。

本発明は、これらの欠点を除去しようとするものであつて、」と記載されており、右記載によれば、本願発明は、従前公知の熱交換器が有していた前記のような欠点を除去するために、特許請求の範囲に記載したような構成をとることにより、「媒体流に必要とする乱流を与えることとなり、それによつて、最も経済的方法で熱交換の問題点を解決」(甲第一号証第三頁第七行ないし第九行)しようとしたものであつて、審決のいうように、単に熱交換媒体にはげしい乱流を起こさせて熱交換効率を向上させることのみを目的とするものではなく、第一引用例のごとく、同種の板を互いに上下一八〇度転回させた交換板のみによつて構成された熱交換器は、本願発明が除去しようとした前記従前公知の熱交換器の欠点である、必要とされる末端温度が得られないという点を解決するものであるとはいえないのである。したがつて、熱交換媒体の流路を複雑にして熱交換効率を向上できることが、第二、第三引用例に記載されているように公知の技術であるとしても、第一引用例に第二、第三引用例記載の技術を結びつけて、本願発明に到達することが、当業者にとつて必らずしも容易であるとは言えないのではなかろうかと考えられる。

いずれにしても、審決は、本願発明と第一引用例のものとの対比において第一引用例の技術の認定を誤り、引いては両者の一致点の認定を誤つたものであつて、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすものと認められるから、その余の点について判断するまでもなく、取消を免れない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編注その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ある枚数の熱交換板がこれらの熱交換板の間に縁ガスケツトを挿入して一つの枠内に組立てて形成され、二つの熱交換媒体を貫流させるための密封された板空間が形成され、前記熱交換板の交換面には隆起条が形成され、これらの隆起条がこの板空間の流路内において互いに交差し、当接することによつて、貫流する熱交換媒体にはげしい乱流を起こさせるようにした熱交換器において、前記乱流特性を与える隆起条の少なくとも一つの特性、すなわち隆起条の数、位置、縦方向の広がり、及び熱交換面のあらかじめある方向づけされた線に対する方向などのうちの少なくとも一つの特性に関して異種の二枚の熱交換板によつて少なくとも一つの空間が形成され、これらの熱交換板は、同種の二枚の熱交換板によつて形成される流路又は異種の二枚の熱交換板によつて形成される流路を構成するために板状熱交換器に施されて、これらの流路が種々の乱流特性を持つようにすることを特徴とする板状熱交換器。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

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